家計の見直しはどこから手をつけたらいいのか。
ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんは「老後の生活では、すでに切り詰めるところがないという人が多い。
まずは固定費を見直すこと、中でも一番効果的なのは保険の見直しだ」という――。
※本稿は、井戸美枝『親の終活 夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■老後は「すでに切り詰めるところがない」人が多い
じつは老後の生活は見直しが必要だと思っても、すでに切り詰めるところがない、という人が多いのが現状です。
収入が年金のみになると、生活はギリギリ、病気で入院したり介護が必要になったりしたら貯蓄から捻出することになります。
定年後、収入が公的年金などに限られてくると、支出は収入の範囲内で収めるように家計の見直しをすることが大事です。
そのときに、支出の内容を把握して、コストカットできるところは今のうちに着手しておきましょう。
支出にはおおまかに2種類あります。
———-
• 固定費……住宅ローン、固定資産税、家賃、管理費、生命保険料、通信費(スマホ代)など
• 変動費……食費、水道光熱費など
———-
食費や水道光熱費などの節約術をよく見かけますが、シニア世代がやりすぎると体調を崩すことにもなり、余計な医療費がかかってしまいます。
自宅で過ごす時間が増えると食事は大事ですし、年齢を重ねるとそんなにたくさんの量が食べられなくなります。
特売品でたくさんの量を買って余らせるよりも、たまには、デパ地下のお総菜を少し買って食べ切る。
量より質を求めてもいいと思います。それよりも「固定費」をカットするほうが効果的です。
■保険には老後不安につけこむものがたくさん
固定費のなかで一番効果が高いのは「保険」です。
すべてカットするのは危険で、加入しておいたほうがいい保険と、シニア世代には必要ない保険があります。
医療保険、死亡保険、自動車保険、火災保険と、自身や家族、世帯単位でたくさんの保険に加入している人が多くいます。
保険は、事故が起こった場合、その後の人生を左右する、取り返しがつかない事由には必要です。
書類を洋服ダンスの引き出しにしまい込んで、「今、何の保険に加入しているのかわからない」、という人も多いのではないでしょうか。
まずは、「保険証書」を集めてから、これからの人生に必要なのかどうか一つずつ精査していきましょう。
■必ず入っておくべき保険
事故を起こして他人にケガを負わせたり、災害に巻き込まれて自宅や家財がダメになってしまったり、いつどんなトラブルに巻き込まれるかはわかりません。
事故や災害、病気やケガに備える保険は最低限備えておいたほうが安心できます。
クレジットカードに付帯されている保険も補償内容を確認しておきます。旅行傷害保険、賠償責任保険、自転車保険(個人賠償責任保険)などがあります。
自動車保険は必ず入っておくべき保険です。
強制加入の自賠責保険の補償内容は、自動車事故に遭った他人(被害者)の人身損害のみに限定されています。
また、補償額は死亡事故で最高3000万円となっており、これを超える損害は補償されません。
車の運転にはさまざまなリスクが伴い、自賠責を超える補償額に対して保険金が支払われる対人補償、他人の自動車や建物に与えた損害に対する対物補償、示談交渉サービス、自分や同乗者のケガ、運転ミスで電信柱などに衝突して運転者がケガをしたなどの自損事故と、さまざまな保険を組み合わせて契約します。
このときポイントになってくるのは「車両保険」です。
最近、夏はゲリラ豪雨、冬は豪雪と気象災害に見舞われるケースが増えてきました。
「集中豪雨であっという間に床下浸水になってしまったり、車が水浸しになってしまった」「アンダーパスで立ち往生してしまいそのまま車を放置して避難した」といった事態に陥る人もいるでしょう。
車両保険では、どのような補償がつけられるのか、実際の災害を想定して、金額ではなく必要な補償を考えたほうがいいでしょう。
■火災保険の2つのタイプ
火災保険は、住宅を取り巻くさまざまなリスクを総合的に補償するタイプ(住宅総合保険)とベーシックな補償のタイプ(住宅火災保険)に大きく分かれます。
火災保険では、建物と家財を分けて契約することになっています。
建物は契約したが、家財は契約しなかったということがないよう、注意してください。
借家にお住まいの方は、家財のみ契約することとなります。
また、家財を契約するとき、高額な貴金属や美術品などは保険会社に知らせないと、保険金が支払われない場合もあります。
■水災に対応しているかどうか
補償の範囲は「住宅総合保険」と「住宅火災保険」は、ともに火災、落雷、ガス爆発などの破裂・爆発、風災・ひょう災・雪災(一部自己負担が伴う場合もある)による家屋の損害に対して保険金が支払われますが、注意したいのは「水災」です。
「住宅総合保険」では、水災は補償の対象になりますが、「住宅火災保険」では対象外。 最近多発しているゲリラ豪雨ですぐに浸水する地域にお住まいの方は、「水災」が補償の範囲になっているかどうかが大きなポイントになってきます。このほかに、「住宅総合保険」には「自動車の飛び込み等による飛来・落下・衝突」、「給排水設備の事故等による水漏れ」「騒じょう等による暴行・破壊」「盗難」など幅広いトラブルに対しての備えがつけられます。 聞き慣れない言葉ですが「騒じょう」とは、自宅前で破壊行為が発生して自宅の塀や壁が壊されたといったトラブルに巻き込まれることで、修繕する費用が保険金で支払われます。住宅総合保険に加入すると生活のなかで起こるトラブルのすべてが補償されるので保険料は割高になります。お住まいの環境から必要な補償を選択しましょう。 また、地震保険は単独では契約できず、火災保険とセットになっています。地震保険は、建物と家財のそれぞれで契約します。契約金額は、火災保険の契約金額の30~50%の範囲内で、建物は5000万円、家財は1000万円が契約の限度額になります。日本は地震大国で、いつどこでも大地震が起こる可能性があるので、火災保険とセットで加入しておくと安心できます。
■60歳を過ぎたら手厚い保障は不要
医療保険は保障の充実したものを選ぶ方も多いかと思いますが、これはおすすめできません。公的医療保険では高額療養費制度などを申請すれば、治療費の一部が戻ってきますが、入院に伴う諸経費(差額ベッド料、親族付添費用など)、高度先進医療を受けたときの技術料は自己負担になり負担は重くなりがちです。高齢になってから加入すると月額の保険料が高くなることがあります。基本は掛け捨てで、60歳を過ぎたら手厚い保障は必要ありません。
■「生命保険(死亡保険)」は不要になる
子どもが成人してからも生命保険(死亡保険)に加入している人も少なくありません。死亡保険は残された家族が生活に困らないために加入しておくもので、子どもが成人した後は大きな保障額は不要です。終身保険で低解約返戻金型は、いつ解約すれば得なのかなど確認しておきましょう。中には「お葬式やお墓代ぐらいは死亡保険でまかなってもらう」と考えている人もいると思いますが、今はお葬式も家族葬が中心で、備えは必要ですが「貯蓄」があれば保険は必要なくなります。子どもが成人したとき、定年退職をしたタイミングで見直すことをお勧めします。 また、公的介護保険での自己負担分を補うものとして民間でも介護保険が販売されるようになりました。保険会社によって介護の判断基準も異なり、いつまで保障されるのか一時金だけなのかなど、様々です。公的介護保険を利用する場合は、一部負担金(1割から3割)が必要です。この一部負担金の分だけ民間介護保険を利用するというのもいいでしょう。介護が必要になるかどうかはわかりません。基本は、年金や貯蓄で支払えるように考えておきましょう。
■やってもいい投資は「つみたてNISA」
投資には、株式や投資信託などの金融投資、アパートや駐車場の不動産投資などがあります。物価上昇が続いているので、普通預金をしていては上昇分をカバーできません。投資信託などで運用するのもいいでしょう。しかし、安易に儲け話に乗ってしまい多額の投資をして財産を失うのは取り返しがつきません。資産を増やすのに甘い話はありません。
「つみたてNISA」は2018年からスタートした、投資信託を対象にした非課税制度。通常、投資で出た利益に約20%の税金がかかるところ、つみたてNISAには税金がかかりません。しかも、日本で販売されている投資信託約6000本のうち、金融庁の基準を満たした“積立に向く”215本(22年8月18日※1)に絞られるので選びやすいといった特長があります。 ※1:2023年5月26日時点で228本 積立額の上限は1年間で40万円まで。非課税となる期間は最長20年。口座開設できるのは1人1口座で、18歳以上であれば何歳でも始められる上、いつでも売却、引き出しができます。制度改正で、24年からは非課税となる期間は無制限、年間投資枠はつみたて投資枠で120万円、成長投資枠で240万円まで、合計360万円になります。非課税となる生涯投資枠は1800万円(成長投資枠は1200万円まで)と制度が拡大されます。 投資は、値動きしますので老後資金から多額の投資資金を捻出するのは禁物です。収入から支出を差し引いて貯蓄にまわすうちの余剰資金で運用するようにしましょう。